【展覧会】1月29日まで豊田市美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター展」をレポート。日本初公開となる《ビルケナウ》など注目の作品を紹介
2023年1月29日(日)まで豊田市美術館で開催している、日本の美術館では16年ぶりとなる大規模な展覧会「ゲルハルト・リヒター展」。日本初公開となる《ビルケナウ》など本展のみどころや注目の作品をレポート。
過去作から最新作までを展示した「ゲルハルト・リヒター」展
会場風景 ©Gerhard Richter.2022(07062022)
ゲルハルト・リヒターは1932年にドレスデンに生まれ、1960年代にデュッセルドルフの芸術アカデミーで学び、この頃から身近な写真を拡大して描く〈フォトペインティング〉を制作。抽象絵画、静物画、風景画、巨大なカラーチャート、ガラスや鏡を用いた作品、〈グレイペインティング〉、〈アブストラクト・ペインティング〉、〈ビルケナウ〉など60年以上の芸術活動でさまざまな表現方法に挑み作品を生み出してきた。
会場風景 ©Gerhard Richter.2022(07062022)
豊田市美術館では、多岐にわたる作品をおおむね制作年および作品番号の順にしたがって展示。1Fの展示室に入ると、1960年代に制作された既存の写真や雑誌の切り抜きをぼかして模写した〈フォトペインティング〉やキャンバスを灰色の絵具で塗り込める〈グレイペインティング〉、ガラスと鏡などの作品を紹介している。
〈グレイペインティング〉についてリヒターは、「無を示すのに最適」と語っているが、作品によって描き方も筆やローラーと違う為、様々な表情を見ることができる。
会場風景 手前は《モーリッツ》(2000/2001/2019)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
会場風景 《アブストラクト・ペインティング》(2000)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
次のエリアでは、〈アブストラクト・ペインティング〉や〈オイル・オン・フォト〉が登場する。〈アブストラクト・ペインティング〉は、「スキージ」と呼ばれる自作の大きく長細いへらを用いて、キャンバス上で絵具を引きずるように延ばしたり、削り取ったりして表現された作品で、リヒターの代表作の一つでもある。
文字通り「抽象的」に描かれてはいるが、様々な色彩が見る人の深層心理に訴えかけているように感じる。
会場風景 《オイル・オン・フォト》
©Gerhard Richter.2022(07062022)
〈オイル・オン・フォト〉は、1980年代から制作がスタートし、写真に油絵具などを塗りつけたシリーズ。写真の再現性に対して、絵具では抽象的に描かれている。
会場風景 手前が《8枚のガラス》、奥が《4900の色彩》
©Gerhard Richter.2022(07062022)
《8枚のガラス》を中心に設置し周りには、《カラーチャート》、《ストリップ》、《アラジン》を展示。カラーチャートシリーズの《4900の色彩》は、コンピューターを用いてランダムに25色を並べた約50cm四方のパネルを196枚組み合わせた作品。パネルを1枚ずつ展示するパターンやすべてをまとめて1枚にするパターンなど、空間に合わせて11通りの展示方法が設定されている。
会場風景 《ストリップ》(2013〜2016)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
《ストリップ》は、2011年から始められたデジタルプリントのシリーズ。制作方法は、別作品の《アブストラクトペインティング》をスキャンし、デジタル画像を縦に2等分しそこからさらに2等分する。この過程を12回繰り返すことで幅0.3mmほどの細い色の帯ができて、これを鏡うつしにコピーして横方向につなげて完成させる。
《カラーチャート》と《ストリップ》に共通する点はパターンがランダムで構成されているということだ。そして他の作品に比べると、とてもポップでこれまでとは全く違う印象を受けて、リヒターの表現方法の豊かさに驚かされる。
日本初公開の《ビルケナウ》(2014)
会場風景《ビルケナウ》(2014)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
会場風景《ビルケナウ》(2014)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
会場風景 左が《グレイの鏡》(2019)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
4点からなる抽象画《ビルケナウ》は、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で密かに撮られた写真をキャンバスに描き写し、さらにアブストラクト・ペインティングの手法を用いて何層にも塗り込んで制作した作品だ。
向かいには、同作品をデジタル撮影した同寸の写真ヴァージョン、間には《グレイの鏡》、そして元になった強制収容所内の写真4点も展示している。
これは先入観もあるだろうが今までのエリアとは違い、重く・悲しく・冷たい空間。無色の鏡ではなく、グレイ色の鏡作品を設置している点も何かしらの意図も感じる。
抽象的に描かれてはいるが、下層には決して忘れてはいけない歴史が描かれている事で、見た人の記憶へ強烈に残るメッセージ性の強い作品だ。この絵画作品が市場に出さないよう保護する為に、ゲルハルト・リヒター財団を設立するキッカケにもなっている。
会場風景 《アブストラクト・ペインティング》
©Gerhard Richter.2022(07062022)
会場風景 《アブストラクト・ペインティング》
©Gerhard Richter.2022(07062022)
2Fは《ビルケナウ》以降に制作された《アブストラクト・ペインティング》が並ぶ。これまで以上に鮮やかな色彩で描かれている事が分かる。「《ビルケナウ》を完成した事で解放された」とリヒターが語っているように、作品にも大きな変化を感じる。
会場風景 《ドローイング》
©Gerhard Richter.2022(07062022)
3Fでは《ドローイング》のみを展示したエリアで、制作されたのは2021年と新しい作品が並ぶ。しかし、断片的な線や面を画面全体に配し、画面の隅に日付を描き込むスタイルを確立したのは、1980年代に入ってからのこと。
フリーハンドの震えるような線描、製図のような直線、円、細やかな陰影など、リヒター作品における重要な作者の無意識や恣意性、素材の特性が生み出す偶発性がドローイング作品でも確認する事ができる。
豊田市美術館のみリヒター最新作を展示
会場風景《ムード》(2022)
©Gerhard Richter.2022(07062022)
最後のエリアでは、豊田市美術館のみ展示される最新作《Mood》(2022)が展示されている。巡回がスタートすると基本的には作品を追加展示されることは少ない。作品の保護を目的に、会場ごとに過去の作品を入れ替える事はあっても、最新作を展示するのはまれである。
まさに過去作から最新作までのリヒター作品を堪能できる大注目の展覧会だ。
会場風景 展覧会オリジナルグッズ
©Gerhard Richter.2022(07062022)
1Fのミュージアムショップでは、図録・ポストカード・ノートなど展覧会限定グッズのラインナップが豊富。特にポストカードはリヒターの代表作をセレクトしていて、全種類の購入をオススメしたい。
開催概要
展覧会名 | ゲルハルト・リヒター展 |
会期 | 2022年10月15日(土)〜2023年1月29日(日) |
時間 | 10:00〜17:30(入場は17:00) |
休館日 | 月曜日 |
会場 | 豊田市美術館 |
住所 | 愛知県豊田市小坂本町8丁目5−1 |
MAP | |
入場料 | 【当日券(オンライン料金)】 一般/1,500円 高校・大学生/900円 【当日券(窓口料金)】 一般/1,600円 高校・大学生/1,000円 ※本展は、日時等の事前予約は不要です。 ※ オンラインチケットは100円割引、20名以上の団体は200円割引(他割引との併用不可) ※ 中学生以下無料 ※ 豊田市内在住又は在学の高校生、豊田市内在住の75歳以上、障がい者手帳をお持ちの方(介添者1名)は無料(要証明) ※ その他、観覧料の減免対象者及び割引等については豊田市美術館ウェブサイトをご確認ください。 |
チケット購入先 | ゲルハルト・リヒター展 オンラインチケットサイト |
公式サイト | ゲルハルト・リヒター展 公式サイト |
美術館公式サイト名 | 豊田市美術館 |
SNS一覧 | |
主催 | 豊田市美術館、朝日新聞社 |
後援 | 大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館、ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都、在日ドイツ商工会議所 |
特別協力 | ゲルハルト・リヒター財団、ワコウ・ワークス・オブ・アート |
協力 | 小川香料ホールディングス、ルフトハンザ カーゴ AG、岡建工事 |
Takenaka Kenji
playpark合同会社 代表・クリエイティブディレクター
1983年生まれ。大阪の出版社でデザイナー・編集者として勤務。ECサイト会社などを経て2017年デザイン事務所playparkを設立。2022年にアート、デザイン、エンタメ、クリエティブなど業界のクリエイティブを「発見し、考え、繋げる」をテーマにWEBマガジンBuzzBubble(バズバブル)をスタートさせる。
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